フォーラム・シンポジウム
モーリー通信第5号 湿原特集記念「北海道の湿原フォーラム 北海道の湿原とタンチョウのいま、そして未来へ」
10月3日、モーリー通信第5号の湿原特集発行を記念した「北海道の湿原フォーラム」が、札幌市中央区の北海道新聞社本社1階「DO-BOX EAST」で開かれました。会場には120人の市民らが集まりました。

第1部の基調講演では、一般社団法人タンチョウ研究所の正富欣之所長が登壇しました。正富所長は、一時は絶滅が危惧されたタンチョウの個体数が現在は約2,000羽規模まで回復し、レッドリストのランクも改善された現状を説明しました。しかし「個体数増加が直ちにリスク解消を意味するわけではない」と指摘しました。

特に、給餌場など特定の越冬地に密集することで鳥インフルエンザ等の感染症が一気に広がる懸念があり、感染症リスク低減には「越冬地の分散」と、それを支える「新たな繁殖地(湿地環境)の確保」が不可欠であると強調しました。また、再生可能エネルギー施設建設による生息地の縮小リスクや、子育て時期のドローン撮影がヒナの死亡・捕食につながる危険性についても言及し、タンチョウが生息できる湿地環境を守ることが地域全体の生物多様性保全につながると訴えました。
続いて、札幌市立大学名誉教授で日本湿地学会会長の矢部和夫氏が「北海道の湿原―雪と霧がつくる特別な自然と、その未来」と題して講演を行いました。矢部氏は、北海道の泥炭地湿原が「年間わずか約1ミリメートル」という果てしない時間をかけて形成されたものであり、一度破壊されると再生は極めて困難であることを説明しました。

さらに、太平洋側の夏季の「霧」が乾燥を防ぎ、日本海側の「雪圧」が地形の形状を調整するなど、北海道独特の気候要因のバランスによって繊細な湿原景観が保たれているメカニズムを解説しました。気候変動による変化に懸念を示しつつも、単に「守るか壊すか」の二者対立ではなく、観光や地域振興とも両立させる「ワイズユース(賢明な利用)」の重要性を提示しました。
プログラムの後半では、酪農学園大学教授の𠮷中厚裕氏をコーディネーターに迎え、「北海道の湿原の課題と、人と自然のこれから」をテーマに議論が行われました。

討論では、かつて20万ヘクタール以上あった北海道の湿原が約5万5千ヘクタールまで減少したことや、特に石狩低地帯における保全・再生の必要性が挙げられました。近年、舞鶴遊水地で7年連続のタンチョウ繁殖成功(地域による見守りや立入制限の効果)が確認されている例や、勇払平野の美々川流域が西端の貴重な越冬地になっている現状が報告されました。一方で、交通事故や農地への影響、再エネ開発との摩擦など、人との距離が近くなったことによる課題も整理されました。保全・利用・再生・開発を明確にする「ゾーニング」の重要性や、夕張川中流域(ホロムイ湿原)での湿原再生の試みが紹介されたほか、会場からは道央圏でのタンチョウ目撃情報の提供や、若い世代への環境教育の必要性について活発な意見が出されました。

𠮷中氏は「湿原の価値を伝えるには、人々が実際に自然や生きものと接する機会を持つことが大切。小規模な場所も含め、身近な湿地に目を向け、そこにいる生きものや湿地ができた背景に思いを巡らせてほしい」と呼びかけました。
ネイチャーフォーラム2026「夏休み特別企画 親子で学ぶ昆虫フォーラム」
7月25日、夏休み特別企画「親子で学ぶ昆虫フォーラム」を札幌市中央区の北海道新聞社本社ビル1階「DO-BOX EAST」で開かれた。
北海道大学総合博物館の大原昌宏特任教授が講師を務め、親子連れら110人が参加した。

子どもらを前に講演する大原氏
大原教授は昆虫分類学を専門とし、アジア域のエンマムシ科甲虫の研究での第一人者で、日本昆虫学会会長なども歴任した。「調べるって楽しい!」をテーマに、観察・採集から研究の意義まで幅広く語った。

「調べるって楽しい!」をテーマに語った大原氏
捕虫網で草むらを掃うように振る「スイーピング」や、木の枝を叩いて昆虫を白い布の上に落とす「ビーティング」など採集技術のほか、標本作製の方法も紹介。「標本には必ず採集データのラベルを付けることが大切で、ラベルがなければただの死骸になってしまう」と記録することの意味を強調した。
生き物の構造を技術開発に応用する「バイオミメティクス(生物模倣)」についても触れ、蛾の目の細かな凹凸構造をヒントに開発された「モスアイフィルム」が光の反射を抑え、スマートフォンの画面などに活用されていることを紹介。外来種問題や風力発電による昆虫への影響など、環境との深い関わりも解説した。

多くの参加者が集まった「夏休み特別企画 親子で学ぶ昆虫フォーラム」
研究の原点を問われた大原教授は「美しい昆虫を見て『きれい』『面白い』と感じる純粋な気持ちこそが出発点。役に立つからではなく、好奇心から始まる研究が本当に面白い」と語りかけた。
2025年 寒さが守るこの星の生命~天売島から始まった世界“海”紀行~
天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんを招いて、北海道新聞野生生物基金のネイチャーフォーラム2025「寒さが守るこの星の生命~天売島から始まった世界“海”紀行~」を9月5日、札幌市中央区の北海道新聞社交流スペース「DO-BOX EAST」で開催しました。
自然豊かな天売島の現状から説明、最も繁殖しているウトウの膨大な巣穴をとらえた空撮画像や、絶滅危惧種のウミガラス、ケイマフリのふ化など珍しい画像の数々を紹介してくれました。

会場の様子
また、北極の数え切れないほどの群れをなしたイワシとそれを狙うシャチや南極のペンギンをとらえた迫力ある動画から、流氷がもたらす植物プランクトンが寒さと豊かな生物を支えている仕組みを説明、極地の氷が20年前と比較して激減している画像から豊かな生命が危機にさらされている現状を訴えました。
来場者からは「素晴らしい映像で感激しました」「またこのような機会を設けて欲しい」と大変好評なフォーラムでした。

スクリーンの前で熱弁をふるう寺沢さん
2025年 カムイの生命と大地
北海道新聞野生生物基金のネイチャーフォーラム2025「カムイの生命と大地」を7月12日、札幌市中央区の北海道新聞社交流スペース「DO-BOX EAST」で開催しました。
講師は北海道を中心に自然や野生動物を被写体に活動する写真家・山本純一さんで、撮影秘話を交えて披露して頂きました。

フォーラムの様子
前半は、北海道の夜空に輝く星々と彗星の美しい写真の数々を披露していただきました。地球を周回する人工衛星の軌道が、さながら写真の「キズ」のように見える作品では、自然の保護・保全の必要性が空にも及んでいる現実を紹介。後半は、野生動物たちの親子の情があふれる子育ての様子など、軽妙なトークを交えて楽しく語ってくれました。
来場者からは、「大変有意義な会でした」「北海道の大自然保護の大切さを痛感した」などの感想が寄せられ、大変好評なフォーラムとなりました。

エゾシカの親子
2024年 北海道の動物園水族館 9園館プロジェクト

約40人が来場したネイチャーフォーラム2024
北海道新聞野生生物基金のネイチャーフォーラム2024「北海道の動物園水族館9園館プロジェクト」が8月31日、札幌市中央区の道新プラザDO-BOXで開かれました。
酪農学園大学・金子名誉教授と旭山動物園・坂東元統括園長が講師を務め、大雨によるJR不通で参加できなかった釧路動物園を除く道内8つの動物園・水族館の飼育員らが、雨の中、来場した約40人を前に野生生物の保護や保全活動について発表しました。
9園館プロジェクトは、道内の日本動物園水族館協会に加盟する動物園と水族館が連携して、野生生物の保全に関する調査研究、情報共有や普及啓発活動を行うというもので、職員の合同研修や施設の相互利用なども目指す新しい取り組みです。北海道新聞野生生物基金では、今後も同プロジェクトの活動に注目していきたいと思います。

フォーラムに参加した動物園・水族館の参加者と金子さん(中央右)、坂東さん(中央左)
9園館プロジェクトで取り組む「北海道産いきもの保全プロジェクト

北海道内の動物園・水族館の施設8園館で立ち上げた「北海道産いきもの保全プロジェクト」に「AOAO SAPPORO」が加わり、9園館での活動となりました。
北海道は、日本の中でも独自の貴重な生態系が築かれています。9園館が協働で持続可能な生物多様性の保全に向け、北海道に生息している生物や環境の域内・域外保全活動を積極的に実施していきます。
活動内容は、
・北海道の野生生物の域内保全・域外保全に係る活動
・北海道の野生生物の保全に係る調査・研究
・北海道の野生生物の生態や自然保護についての教育普及啓発
・職員の相互研修
・施設の相互利活用
などです。
「北海道産いきもの保全プロジェクト公式Instagram」 https://www.instagram.com/hokkaidousan.ikimono/

