自然・環境エクスカーション
2026年度 札幌・豊滝でボランティア体験とスタディツアー
ヒグマの生態を知り、人とクマが適切な距離を保ちながら暮らすために何が必要かを考える「クマをよりよく知るためのボランティア体験とスタディツアー」が10月12日、札幌市南区豊滝で開かれた。参加者は森林周辺の環境整備を体験するとともに、足跡やふん、樹木に残された爪痕などを手掛かりに、専門家の解説を受けながらヒグマの生態や森林での安全対策について学んだ。
ツアーはエコ・ネットワークが主催し、公益財団法人北海道新聞野生生物基金とNPO法人EnVision環境保全事務所が共催。午前にクマ対策につながるボランティア体験、午後にヒグマの痕跡などを観察するスタディツアーが行われた。
見通し確保する環境整備を体験
午前のボランティア活動では、森林周辺の見通しを良くするため、伐採された枝を整理する作業などに取り組んだ。

クマが人の生活空間へ近づきにくい環境づくりの一環として、森林周辺の見通しを確保するために伐採作業が行われた
クマへの対策というと、クマと遭遇したときの行動に目が向きがちだが、今回の活動では、人の生活圏の周辺でクマが近づきにくい環境を整えていくことも対策の一つとして体験した。参加者は実際に体を動かしながら、クマと人との距離を保つための環境づくりについて考えた。

毛皮や足跡の模型、ふんなどの資料を使い、ヒグマの体の特徴や食性について学ぶ参加者
足跡やふんから暮らしを読み解く
野外では、ヒグマの毛皮や足跡の模型、ふんなどさまざまな資料を広げ、体の特徴や食性について説明が行われた。ヒグマの足には5本の指があり、足跡を見分ける際には肉球の形が重要な手掛かりとなる。爪痕は地面の状態によっては明瞭に残らないこともあるため、ぬかるみなど足跡が残りやすい場所を注意して観察することがポイントだという。
爪は木登りだけに使われるわけではない。落ち葉をかき分けて木の実を探したり、地面や朽ちた木を掘ってアリなどを食べたりするときにも使われる。森の中では、こうした採食行動そのものが痕跡として残り、姿が見えなくてもクマがその場所を利用したことを知る手掛かりになる。
食べる物も季節によって変化する。春から夏には草類を多く食べ、十分に消化されなかった植物がふんに残ることがある。木の実や果実なども利用し、クルミを食べた場合には、砕かれた殻がふんの中に残ることも紹介された。果実と一緒に取り込まれた種子が移動することで、クマが植物の種子を運ぶ役割を担う可能性についても説明があった。

伐採された木の枝を整理する参加者。クマ対策につながる森林周辺の環境整備を体験した
冬眠や繁殖、生態にも理解深める
冬を迎える前の秋は、ヒグマにとって冬眠に備えて食べる重要な時期でもある。講話では、冬眠中には食べたり飲んだりせず、排泄もしないことが紹介された。その身体の仕組みには、現在も分かっていない部分があるという。
ヒグマは基本的には単独で行動し、繁殖期には雌雄が行動をともにすることがあることも説明された。また、それぞれの行動範囲は重なっており、他の個体を完全に排除するような厳密な縄張りとは異なるという。こうした生態を知ることは、森林に残された痕跡を読み解く上でも重要になる。

紅葉した山々を背景に、足跡の模型や毛皮などを観察しながらヒグマの生態について学んだ
森に入り、本物の痕跡を観察
午後は参加者が遊歩道を歩き、午前に資料を使って学んだクマの痕跡を実際の森林で探した。森の中では、樹木についた傷がすべてクマによるものとは限らない。鹿が角をこすった跡などもあるため、傷の位置や形などを見ながら判断する必要がある。
クマが果実を食べるために木に登った際についたとされる爪痕も観察した。クマは木登りができ、大きな成獣でも木に登ることがあるため、「木の上に逃げれば安全」という考え方は適切ではないことも説明された。ツル植物が絡んだ木も観察のポイントとなり、コクワや山ブドウなど、クマが利用する食物と森林内の場所との関係について学んだ。
木に残された「背こすり」
参加者が観察した痕跡の一つが、樹木に残された「背こすり」の跡だった。クマは木に体をこすりつけたり、爪をかけたりすることがあり、その結果、樹皮に傷がつき、ときには体毛が残ることもある。
背こすりは、においを介した個体間のコミュニケーションに関係している可能性があり、特に繁殖期の6~7月に雄で多くみられるとの説明があった。写真や模型ではなく、実際の森林に残された痕跡を目の前にすることで、クマが森林をどのように利用しているのかを具体的に学んだ。

樹木に残されたクマの「背こすり」の痕跡を観察し、樹皮の傷などからクマの行動を読み取る参加者
森林で出合わない工夫も重要
ツアーでは、森林を安全に利用するための基本についても確認した。クマがいる可能性のある場所では、人が近くにいることをクマに知らせるため、声を出すことが基本とされた。鈴も存在を知らせる音になる一方、周囲の物音や気配を確認することも重要だと説明された。
万一の遭遇に備え、クマよけスプレーについても学んだ。スプレーはにおいでクマを遠ざける道具ではなく、カプサイシンによる刺激を鼻や目など顔付近に与える最終手段と説明された。必要なときにすぐ使える位置に携行し、安全装置や取り出し方を事前に理解しておくことが重要で、参加者はスプレーとホルスターの扱いも体験した。
痕跡を知ることが安全につながる
今回のツアーでは、クマ対策につながる環境整備、資料を使った生態学習、森林での痕跡観察、安全対策を一連の体験として学んだ。クマの姿そのものを探すのではなく、地面に残った足跡、食べ物の痕跡、ふん、木についた爪痕や背こすりなどを注意深く観察する。それら一つ一つが、クマの森林利用を考える手掛かりとなる。
ヒグマの生息域と人の生活圏が接する北海道では、その生態を知り、遭遇を避ける行動や環境づくりにつなげることが重要になる。参加者にとって今回の体験は、身近な森に生息するヒグマの存在を改めて知り、人と野生動物との距離の取り方を考える機会となった。

