北海道新聞野生生物基金では、大人から子供まで、楽しみながら自然を体験できる事業や北海道の自然の素晴らしさや、失われようとしている自然の実状を共に考えてさまざまな活動に力を入れています。 野生生物基金で実施している事業は次の通りです。
■普及啓蒙事業
・オリジナルカレンダー WILD LIFE
・フォーラム、シンポジウム
■体験活動事業
・自然・環境出前講座
・自然・環境エクスカーション
・モーリーの森づくり
■コンテスト事業
・北海道野生生物写真コンテスト
・夏休み自然観察コンクール
■出版事業
・自然情報誌「モーリー」
■調査事業
・北海道フラワーソン
■助成事業
・自然保護、野生生物保全の団体・個人へ助成
第27回夏休み自然観察記録コンクール(北海道新聞野生生物基金、北海道自然保護協会、北海道新聞社主催)は全道22小学校から35点の応募があり、入賞9点、佳作12点が選ばれた。入賞作と佳作は11月3日~8日に札幌市資料館で、2021年1月6日~11日に札幌市円山動物園で展示される。入賞、佳作は次の通り。(敬称略)
▽銅賞
水島悠翔(江別市立中央小1年)「サンショウウオのにっき」
坂本颯人(千歳市立北陽小2年)「ぼくの虫とり大ぼうけん」
宮本輝(旭川市立愛宕東小3年)「エゾサンショウウオの成長」
山本そら(札幌市立円山小4年)「円山の虫」
武田茉優(根室市立北斗小5年)「エゾリンドウの花びらには光合成をする葉緑体はあるのか?」
中屋宏太朗(札幌市立大倉山小6年)「キアゲハのさなぎは十人十色なの?」
▽佳作
長内智幸、早津有里菜(以上札幌市立北陽小1年)、金子春樹(厚真町立上厚真小1年)、堺羽叶(道教育大付属釧路小2年)、山本有桔(道教育大付属旭川小2年)、飯田晃生(札幌市立北小3年)、岩間大翔(石狩市立花川南小3年)、早津充陽(札幌市立北陽小3年)、森下茉莉(旭川市立近文小4年)、菊池健永(札幌市立平岡南小5年)、真田桃(札幌市立澄川小6年)、丹場遥音(小樽市立銭函小6年)
◇講評 横山武彦審査委員長
【金賞】
小栗義晴君は5月1日、家の近くの池で採集したエゾアカガエルとエゾサンショウウオが卵から成体になるまで、その経過と体の変化や違いを106日間、観察し、詳しく「観察ノート」として記録しました。エゾアカガエルとエゾサンショウウオのそれぞれについて、卵や卵のう内の胚(はい)と、ふ化後の個体の成長経過の観察結果とスケッチ、定規を当てて計測しました。計測データはお父さんに教えてもらってパソコンのエクセルで表とグラフに整理し、考察のための資料としました。
飼育する水槽は水が汚れないようにふ化前は3日ごとに、ふ化後は毎日水を入れ替えたり、エゾアカガエルは手が、エゾサンショウウオは足が生えたら登れる石を置き、餌もカエルには金魚の餌・小松菜・ご飯粒・パンくずを、サンショウウオには乾燥赤虫・乾燥ミミズのほか、サンショウウオやカエルの幼生を与えるなどの工夫をしました。カエルはふ化後11日目ごろに大中小の幼生を5匹、サンショウウオはふ化したものから5匹を別の容器に移し飼育、サンショウウオが共食いでいなくなったら補充しながら成長を観察しました。
ふ化前の胚とふ化後の幼生、変態経過、成体になった時、各個体の形や色、全長や部分の大きさの計測値から成長の過程とカエルとサンショウウオの成長・変態のしかたも比較でき、その違いも確認できました。
カエルよりサンショウウオの方が卵の中に長くいる分、幼生が大きく成長してふ化する。採集したカエル卵530個のふ化率は30%、成体まで飼育出来たのは5匹。サンショウウオの卵54個のふ化率は63%、成体まで飼育出来たのが2匹。大きなサンショウウオの幼生が小さなカエルを食べたり、共食いをすることも成体まで成長する割合の違いに現れることがわかりました。
また、観察していると、まずカエルはふ化後30日すると足が肛門の付近のヒレの中から、サンショウウオはふ化後20日すると、えらの下あたりから手ができてくる。カエルは手より足が先に、サンショウウオは足より手が先に出てくるのは成体になった後の生きるために必要なことからと理解しました。また、ふ化から成体になるまではカエルもサンショウウオもほぼ40日であること、カエルの手が生えると幼生の尾が1週間もたたずに無くなることもわかりました。
サンショウウオの死んだ幼生を解剖し、スケッチしましたが、えらがあるのに肺ができていること、横隔膜がないことに驚いたとのこと。
このエゾアカガエルとエゾサンショウウオの飼育観察は緻密な観察の眼と持続的な集中力、探求へ意欲が素晴らしい成果をもたらしました。新しい発見も喜びもあったことと思います。 【銀賞】
福井清夏さんはボランティア活動で参加した時に見つけたカナヘビの卵を持ち帰り、ふ化の様子を観察しました。ふ化が始まる直前には卵の表面に汗の玉のような水がつくこと。卵の端がV字に割れ目ができ、カナヘビの赤ちゃんの顎がみえると羊水が出てくること。完全に出るまでの時間には個体差があること。出たばかりのカナヘビの赤ちゃんのくっついていた手足は羊水が乾くと5本指になることなど、ふ化の経過を注意深く観察しました。また、生み出された卵の上下がふ化成功の重要な条件の一つと気づいていたので、卵の殻から出るときにからだが上下逆のため出られないでいたカナヘビのからだをピンセットで反対に戻してスムーズに卵から出すなどして助けてあげたり、生まれたカナヘビに体温維持に必要な日光浴をさせました。2、3日に1度に行う生まれたカナヘビへの餌やりの世話もお母さんの気持ちで行いました。
食べ物について、食べたものと食べないもの、その食べ方、餌の取り合いの様子、食べている時は頭から胸のあたりまで赤くなることなども観察し記録しました。秋にはカナヘビの冬眠する環境を整えたいとのこと。無事冬眠できるといいですね。小沢孝至朗君は、1年生の時にアサガオの花が咲く時刻とその条件を調べて以来、毎年テーマを変えてアサガオについて観察や実験をしてきました。5年目となる今回はアサガオにはほかに「〜ガオ」と名前のつく仲間、アサガオ・ヒルガオ・ユウガオ・ヨルガオ・ハマヒルガオがあることを知り、詳しく調べて、それらの違いや共通点を明らかにすることにしました。研究の順序は、まず図鑑で調べ、次に実際に実物を観察し、最後にアサガオの「仲間」について考察することです。
自宅で育てているアサガオ、道端に咲いているヒルガオ、花の咲く時季より遅くなったため見つけるのに苦労したハマヒルガオ、実がかんぴょうになるユウガオは農家や市場で見ることができました。それぞれ、花・葉・茎などの色や形の違いや特長や用途などをスケッチとともにわかりやすい表にまとめました。
図鑑での分類では、ユウガオだけがヒルガオ科ではなくウリ科でしたが、クジラが魚のように泳げても魚類ではなく哺乳類であるように、見方を変えて自分なりの分類の仕方もできるのではと考え、他のアサガオの仲間を役割別・咲く時間別・毛やつるの有無など、いろいろな分類の方法で分類してみています。新しい気づきがさらなる研究・工夫を生む力と喜びになっているようです。 【銅賞】
水島悠翔君はサンショウウオの卵を採集した4月20日からふ化・成体になって陸の石の上に登っている9月12日まで観察し、絵日記にしました。スケッチは生き生きと描かれ、文章はサンショウウオの卵が卵のうの中で形が変わっていく様子、ふ化し幼生が出てくる経過、さらにエラや手や足が出て成体になる過程でのそれぞれの特徴や変化の様子、動きを捉えた場面が描かれ、興味を持って、しっかりと観察していた様子がわかります。
坂本颯人君は虫取りが大好きで、今年の夏、千歳の山奥に10回採集に行ってきました。日記のようにその様子を記録しています。主に夜で、朝と昼が1度ずつでした。昼には虫はいなかったのですが、街灯に集まる虫を合計で31匹捕まえることができました。高いところの虫を捕まえるのに工夫したこと、撮ってきた虫を飼育するケースの作り方も写真入りで説明しています。つかまえたのは、クワガタムシ3種のオスとメス、外来種のカブトムシのメスで、それぞれの形や色などの特徴も調べました。
宮本輝君は上川管内東川町の池からエゾサンショウウオの卵のうを持ち帰り、ふ化して成体になるまで餌やりや飼育ケースの世話を行い観察・記録をしました。卵がふ化して34匹の幼生が生まれましたが、その多くは小さいため弱く、共食いをされてしまうのではと考え、幼生を5匹だけ残して池に戻しました。幼生の成長の様子や手足が出てから動きや成長の様子、餌を与えた時の動きなど、その特徴をよくまとめて写真と文でポスターにしました。成体となったサンショウウオ5匹は卵のうを採集してきた池の近くの草の中に「元気でもっと大きくなってね」と放し、自然の中に戻っていった様子とその時の気持ちも「僕がお父さんです!」と心を込めて世話をした気持ちが表れています。
山本そらさんは鳥や植物の案内板はよく見かけるのに、虫の案内板を見かけないことから、虫の好きな人が増えたらうれしいと思い、家の近くの円山公園の虫たちの案内板を作りたいと考え、よく見かける虫のいる場所ごとに案内板にしてみました。案内板は6枚。「木にいる虫」8匹・「地面にいる虫」8匹・「花にいる虫」9匹・「草むらにいる虫」9匹・「手すりにいる虫」8匹・「池にいる虫」8匹、出てきた虫は50匹で、写真とわかりやすい説明文つきです。これをみて虫の好きな人が増えるといいですね。
武田茉優さんはリンドウの花びらにある斑点が光合成をしていることを新聞の記事で読み、エゾリンドウの花びらだけでなく葉にも光合成を行う葉緑体があるのか顕微鏡観察と色素を取り出す実験で確かめてみました。まず、花びらの斑点と葉に葉緑体があることを顕微鏡で確かめてから、それぞれをアルコールに浸して色素が溶け出て色付きの液体ができたこと、色が抜けた後の花びらと葉も顕微鏡で確認しました。花びらから溶け出た液体の色が葉と違うのは花びらの色の色素が溶け出たことによるものとわかりました。
中屋宏太朗君は毎年、キアゲハを飼っていて、さなぎの色が茶色か緑にしかなっていないことに気づき、さなぎの色が周囲の色に関係するのか実験してみました。段ボールの内側が茶色のままのもの、黒い画用紙を張ったもの、緑色の画用紙を張ったものにそれぞれさなぎになる直前の幼虫を入れ観察しました。結果は茶色の箱には茶色のさなぎが、緑色と黒色の段ボールでは緑色のさなぎになりました。このことから、さなぎは茶色と緑色にしかならないこと、また、必ずしも周りの色に影響されていないのかもしれないとも考えました。1箱に1匹ずつでしか実験していないので、数を多くした実験でもっと正確な結果を出せるようにしたいとのこと。ほかの色や環境条件でもしてみてはどうでしょうか。◇審査委員
在田一則(北海道自然保護協会会長)、横山武彦、興野昌樹、山川泰弘、種田昭夫(以上北海道自然保護協会常務理事)、堀繁久(北海道博物館学芸部長)、上ヶ島精一(北海道新聞野生生物基金事務局長)
約40人が来場したネーチャーフォーラム2024
北海道新聞野生生物基金のネーチャーフォーラム2024「北海道の動物園水族館9園館プロジェクト」が8月31日、札幌市中央区の道新プラザDO-BOXで開かれました。
酪農学園大学・金子名誉教授と旭山動物園・坂東元統括園長が講師を務め、大雨によるJR不通で参加できなかった釧路動物園を除く道内8つの動物園・水族館の飼育員らが、雨の中、来場した約40人を前に野生生物の保護や保全活動について発表しました。
9園館プロジェクトは、道内の日本動物園水族館協会に加盟する動物園と水族館が連携して、野生生物の保全に関する調査研究、情報共有や普及啓発活動を行うというもので、職員の合同研修や施設の相互利用なども目指す新しい取り組みです。
北海道新聞野生生物基金では、今後も同プロジェクトの活動に注目していきたいと思います。
フォーラムに参加した動物園・水族館の参加者と
金子さん(中央右)、坂東さん(中央左)
<9園館プロジェクトで取り組む「北海道産いきもの保全プロジェクト」>
北海道内の動物園・水族館の施設8園館で立ち上げた「北海道産いきもの保全プロジェクト」に「AOAO SAPPORO」が加わり、9園館での活動となりました。
北海道は、日本の中でも独自の貴重な生態系が築かれています。9園館が協働で持続可能な生物多様性の保全に向け、北海道に生息している生物や環境の域内・域外保全活動を積極的に実施していきます。
活動内容は、
・北海道の野生生物の域内保全・域外保全に係る活動
・北海道の野生生物の保全に係る調査・研究
・北海道の野生生物の生態や自然保護についての教育普及啓発
・職員の相互研修
・施設の相互利活用
などです。
「北海道産いきもの保全プロジェクト公式Instagram」 https://www.instagram.com/hokkaidousan.ikimono/
■ウチダザリガニ55匹捕まえた 洞爺湖町で夏休み体験学習
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北海道新聞野生生物基金とUWクリーンレイク洞爺湖の共催で、酪農学園大学の吉田剛司教授と研究スタッフ、大学生ら10人の全面協力で調査研究の最前線を学んだ。 初日は洞爺湖町に到着した後、まず湖畔で小学1年生から6年生まで3班に分かれ、外来種のウチダザリガニ捕獲の罠をサケのあらを餌にして作り、25メートルぐらいの間隔で6基を次々湖に投げ入れた。 引き続き、洞爺湖ビジターセンターに移動し、有珠山噴火の歴史を勉強した後、火山マイスターの後藤信二さんの案内で金比羅火口災害遺構散策路を歩き、火山噴火の被害にあった遺構の旧町民住宅などの説明を受け、「有くん火口」まで登り、雄大な大自然のジオパークと素晴らしい景観を楽しんだ。 夕食後は財田自然体験ハウスへバスで移動し、真っ暗な夜の森では目や耳が研ぎ澄まされることを体感した。 翌朝は、洞爺湖の遊覧船に乗り中島に到着。山の中腹に開けた大平原まで登り、途中、エゾシカに食べられ消失した植物、エゾシカが嫌いで食べない植物だけが残った現状を観察し、北海道全体で問題になっているエゾシカによる食害、環境改変について考えた。 全国でも有数のパワースポットの大平原に到着すると、大きく手を広げみんなでパワーを吸収していた。 湖畔に戻り昼食の後、初日に仕掛けた罠を引き上げると、55匹ほどのウチダザリガニがかかっていて、これを1匹ごとに重さや体長などを記録し、酪農学園大学が続けている調査、研究のお手伝いをした。最後にウチダザリガニを塩茹でやエビチリなどにしした料理を、「意外とおいしい」と喜んで味わった。 初日に渡されたワークブックには、体験学習の成果がそれぞれに書き込まれ、有意義な時間となった。帰りのバス内では父母にもこのツアーの評価に関してアンケートに答えてもらい、大学側の研究成果の資料にもなった。 |
■親子エコキャンプin平取 ホタルの灯りと満天の星に感動 |
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エコ・ネットワーク、北海道新聞野生生物基金の共催で、講師は小川巌さん(エコ・ネットワーク代表)、新明力さん(自然調理人)らで、それぞれの分野で講師を務めた。 初日はテント設営の後、キャンプ場内には、アブが多く飛んでおり、数種類のアブやオオマルハナバなどの標本を実際に触り違いを勉強した。アブは刺すとは言わず、止まっても数秒間はかじらないので、落ち着いて振り払ってなどと注意事項も説明した。太陽光エコクッキングでは、太陽の光を集める装置を使いゆで卵などを作り、太陽光でも十分料理ができることを学習した。引き続き天ぷら油など廃油を使ったキャンドル作り に挑戦した。 キャンプ場内のヤマベ管理釣り場・仁世宇園では全員が1匹ずつ釣り上げ、夕食のカレーと一緒に刺し身、から揚げにして味わった。 街灯も消された夜のキャンプ場では、広々とした園内をみんなで歩き、輝くホタルを見つけて大喜び、満天の星空と共に、幻想的に輝く夏の一夜を楽しんだ。 翌朝は、まず新明先生が近くのニセウ川で釣り上げたニジマス、ウグイ、ヤマベの違いを現物で学習したあと、周辺で採取したイタドリとサビタ(ノリウツギ)、ササの葉を使って、笛づくりを指導した。 サビタの茎は皮をむくと昔、ノリの原料でもあったと言われるようにネバネバとしており、子供たちは茎の中心をネジで一生懸命に繰り抜いて空洞にし、斜めに切った先に切り込みを入れ、そこにササの葉を挟んで笛を完成させた。イタドリの茎は最初から空洞で、簡単に作ることが出来、思い思いの音を鳴らせていた。 最後の毒草識別講座では、小川先生がキャンプ場内を散策しながら、ヨモギとトリカブトを見つけ「ヨモギは食べられるが、よく似ているトリカブトは毒があるので注意して」と説明した。 今回はテント張り、たたみに苦戦したものの、参加者は1泊2日で大自然の中のキャンプを満喫した。 |